◇ ◇
「今晩、満月なのかな?」
夜空を見上げながら、ここねの少し前を歩くつきねが呟いた。
今いる公園内——目の届く範囲には二人の他に誰もいないけれど、時おり遠くから自動車が走る騒音が聞こえてくる。
「んー、そうかも」
ここねが今朝話題に上がった春の流星群を見ようと、つきねを誘い出したのだ。
春と言っても夜はまだ気温が低い。
つきねには暖かい恰好をさせている。
「この感じ、なんだか小さい頃お母さんに黙って遊びに行った時に似てるね」
「帰ったらすごく怒られて、次の日オヤツ抜きだった」
うんうんとつきねが頷いている。
「今回も怒られるよ、たぶん」
「それはバレる前に帰れば。そんな遠くじゃないし?」
ちょっとした高台があるこの公園は、鈴代家がある住宅街の近くにある。
「おねーちゃん。この辺にする?」
近くにベンチもあるが、ここねたちは立ったまま流星を待つことにした。
「うん。テレビで見た感じだと、そんないっぱい流れるわけじゃないし気は抜けないね」
高台を風が吹き抜ける。雲もなく、流星を見つけるには好条件と言えるはずだ。
ここねはつきねと、夜空を見上げた。
しばらく眺めていると、一条の星が視界を横切る。
「あっ! 始まった!」
咄嗟にここねが指をさす。
「おねーちゃん、願い事は決まってる?」
「もちろん!」
その瞬間——夜空に明るい光が走り抜ける。
ここねたちは祈るように手を組む。
(ここねからあの呪いを取り除けますように……! 私がつきねを守れますように!)
ここねの願いは星に届いただろうか。
「つきねはどんなお願いをした?」
「おねーちゃんといっぱい楽しいことしたいって。歌をやりたいよ」
「そんなお願いなら、私が叶えてあげる。これから何度だって。——ずっと一緒なんだから」
ここねは嘘をつく。
「まず、つきねは病気を治さないとね」
音楽は——歌手はここねにとって叶えたい夢だ。
しかし、自分の夢と命を引き換えにしてでも、つきねの心臓から呪いを奪い去るとここねは決めたのだから。
ここねがつきねに一歩近づく。
「おねーちゃん?」
——すると、世界から切り取られたかのような感覚に囚われる。
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