top of page

第1話後編「はじめの一歩。そして一足先に」02

◇   ◇


つきねはジト目になると、すぐに事実を確認してくる。


「本当のところは?」


悲しいことに、最愛の妹はここねの言葉を少しも信じていなかった。


ここねもすんなりと白状する。


「まねがいつの間にかやってくれてました。なんかね、人数も少ないし機材とかの準備もそんなに手間はかからないから、軽音部に少し時間をくれませんかって交渉したみたい」


桜ヶ丘まねは中学校からの付き合いで、音楽を歌をやりたいというここねの夢をバックアップしてくれる大切な友人だ。音咲高校に入ってからも軽音部を作るのに協力してくれた。


その働きぶりはまさに敏腕マネージャーと言っていい。


今のところ音咲高校軽音部は、ここねとまねのたった二人で構成されている。


「まね先輩さすが」


つきねは感嘆の声を漏らした。


「うんうん、少数精鋭たる軽音部の強みだよね!」


「部員が少なすぎて、最初ステージ確保できなかったんでしょ……?」


「いいのいいの、私の軽音部は。今はこれで」


と、ここねは笑いながら言う。


(私の軽音部……かぁ)


つきねは姉の言葉を心の中で繰り返した。


さっき口にしていたように音咲高校の軽音部の創設者・発起人は、姉のここね自身だ。


入学してすぐにここねは、軽音部を作るために動いた。部活動申請書を作成するために、顧問になってくれそうな教師も探したそうだ。もちろんこの時もまねに手助けしてもらいながらだが。


幸い音咲高校は生徒に機会を与えるという方針で、申請条件が緩めだった。だから部として認められたが、その代わり活動はきっちり真面目にしなければならない。


ただ、その点に関してつきねは心配していない。


◇   ◇


次3

目次



最新記事

すべて表示

第4話後編「決められた運命に逆らって」06 (第一部完)

◇   ◇ 力が抜けたここねの身体をつきねは抱き留める。 「痛かったよね……」 そのままつきねは一度だけここねを強く抱きしめた。 しかし、のんびりしている時間はない。 つきねはここねの左胸を注視していると、黒い何かがそこにあるのだと直感した。...

第4話後編「決められた運命に逆らって」05

◇   ◇ ここねが次に目を覚ますと、そこは無音の世界だった。 美癸恋(みきこい)町の中心街——その抜け殻のような場所に飛ばされるのも、中学生の時から数えてこれで四度目だ。 道端には駐車されたままの自動車が数台。 新商品やセール中を知らせる幟も見える。...

第4話後編「決められた運命に逆らって」04

◇   ◇ 春頃に比べて日が伸びたといっても、つきねが帰り着く頃にはすっかり暗くなっていた。 ドライヤーで乾かし終わると、つきねは髪をブラシで数回撫でる。 「ふぅ……これでいいかな?」 入浴後で、つきねは身も心もサッパリした気分だ。 やることも決まり、迷うのをやめた。...

Comments


ココツキオリジナル小説

 『月ノ心ニ音、累ナル。』

bottom of page