◇ ◇
目を覚ますと、ここねは自室のベッドの中だった。
青々と一面に茂る白詰草も温かな陽だまりもなかった。あるのは自分の体温のぬくもりだけだ。
「真実の愛……かぁ」
ここねはまだ知らない気がする。歌詞でよく見かける言葉ではある。
興味はあるし、学校の男子から告白を受けたこともあるけれど、恋人がいたことはない。
(いつか私も……好きな人ができたらわかるのかな? キスしたりして……)
ふと自分の唇に指先をあてて、ここねは気づく。朝から何だか恥ずかしいことを考えている。あの夢のせいだ。
「だいたい私には最愛の妹がいるから、真実の愛もばっちり知ってる知ってるっ!」
声に出して意識を無理やり切り替えると、ここねは枕元に置いたスマホを手に取った。
三月九日。
今日はここねの中学校の卒業式だ。
時刻はあと少しで六時半。アラームが鳴るより早い。もしかしたら気づかないうちに緊張しているのかもしれない。
「寒……」
ベッドから出ると思わず声が出た。春だというのに朝はまだまだ寒い。
「さて、お寝坊さんの妹を起こしに行きますかー」
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